
最近は年に数回のフライトですが、30代から40代にかけては搭乗の機会がもっと多かったですね。30歳で自分の店を出したあと、プロモーションとして精力的に海外の主たるホテルで「ミクニフェスティバル」を開いてきたので。1989年、ニューヨークの『ザ・キルテッド・ジラフ』をスタートに、タイの『ザ・オリエンタル・バンコク』では5年連続。パリの『オテル・ドゥ・クリヨン』、ロンドンの『ザ・バークレー』など世界中を巡りました。
今年は、フランス料理のユネスコ無形文化財指定を記念する晩餐会にゲストシェフとして招かれ、ヴェルサイユ宮殿に行ってきました。そういうとき、どんな愛用の道具類をフライトに持ち込むのか、ですか? じつは何も持たないんですよ。せいぜい「ミクニ」と名の入ったコックコートくらい。アシスタントスタッフも現地の人です。海外での仕事は短期決戦。「鍋はどこに収納してある?」なんて探していてはダメ。調理場や食材の〝勝手を知っている〟人にいてもらったほうがいいんですね。
意思疎通が難しいと思われるかもしれませんが、そこはやり方がある。顔を合わせたらまず、自分の技量をはっきりと分かる形で見せつけるのです。向こうの料理人は、圧倒的な腕の違いがあれば素直に認め、きちんと従うという姿勢が徹底しています。最初にガツンと力を示せれば、あとは問題ないですね。
到着するとすぐに、ハードなスケジュールと緊張感ある仕事が待っているわけですから、機内でいかに快く過ごせるかはとても重要なこと。そういう意味では、数あるエアラインのなかでもANAのサービスは強く印象に残るものです。何か特別なことをしてくれるというわけじゃありません。でも、スタッフが自分たちのサービスに誇りと自信を持っている、それがちょっとしたふるまいからよく伝わってくるんですよ。食後にさらりと「お口に合いましたか」なんて声をかけてくださるんですが、これはやっぱり、提供しているものに自信があればこそ言えるセリフなのだと思いますよ。

ふだん最もよく使うエアラインは、ミクニが10年来ファーストクラスとビジネスクラスの機内食を手がけるスイス インターナショナル エアラインズです。機内での楽しみといえばやはり食事なのですが、つい、味のチェックという仕事も同時にこなさざるを得ないんですけどね(笑)。
それにしても機内食というのは、以前に比べて格段に進化しました。’70年代に僕が初めて飛行機に乗った頃は、とにかくお腹が満たせればいいというものだったのに、今はまったく違う。空の上という条件の厳しさは変わりませんよ。高度による気温と気圧の問題、調理器具や食材の制限……。それでも改善の余地はいろいろある。僕のメニューでは肉の焼き方も指定していただけますし、ハーブなどを使って香りを引き立たせる工夫もしています。安全面、衛生面の許す範囲で最善のサービスをと、常に考えてきた結果です。
私たちもサービス業ですが、エアラインのスタッフは訓練の行き届いた総合的なサービスのプロ。フライトを存分に楽しみたければ、彼らの能力を最大限に引き出したほうがいいでしょうね。そのためには、こちらが「楽しみ上手」になることですよ。自分が不機嫌だったら、サービスする側も距離を置かざるを得なくなる。だから僕はチェックイン時からできるだけ笑顔で多くのスタッフの方に声をかけて、コミュ二ケーションをはかります。自分が心地よくいられる環境を、自分から生み出していくわけです。そうすれば、サービスのプロ集団たるエアラインは、必ずや最高のホスピタリティを提供してくれますよ。
- ポイント1
- 機内ではスタッフの自信と誇りを感じ取り、身を任せて快適に過ごすべし
- ポイント2
- 積極的にスタッフとコミュニケーションをはかり、「サービスのプロ」の能力を最大限に引き出す


- 1954年北海道増毛町生まれ。15歳で料理を志し、札幌グランドホテルで修業を開始。帝国ホテルを経て、20歳でスイス日本大使館の料理長に就任。ヨーロッパではフレディ・ジラルデ氏などに師事する。帰国後の’85年、東京四ツ谷に『オテル・ドゥ・ミクニ』を開店。世界各地で「ミクニフェスティバル」を開催。2001年、九州・沖縄サミット福岡蔵相会合の総料理長を務める。’10年 フランス農事功労章オフィシェを受勲。米国の料理専門学校Culinary Institute of Americaをはじめ、現在は世界各地で後進の指導にもあたっている。
http://www.oui-mikuni.co.jp/
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